第四部・二つの光




 アカシャはヴァーユの所に向かうべく急旋回した。

「あいつか!!」

 少し離れた所でヴァーユが灰色のラミエルの周囲を旋回しながら攻撃するタイミングを窺っている。しかし敵も時折牽制気味にビーム発射口を光らせ、「返り討ち」を狙っているのかのような様子を見せているので大作も迂闊には飛び込めないようだ。

「草野! 僕は後に回り込む! 少し待て!!」

『頼む!!』

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第二十二話・巡り合わせ

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 さてこちらはターミナルドグマ。訝しげな顔のリツコが、

「碇司令、さっき、『もう一度やり直し』とおっしゃいましたわね。それは、私たちが今の記憶を持ったまま過去の時点に帰らなければ出来ない事ですわ。どうやって記憶を持ったまま過去に行くのです?」

 ゲンドウは、ニヤリと笑い、

「私と祇園寺は向こうの世界から異次元世界を通って帰ってこっちに戻って来た。その時も『魂と言うべき存在』だったからこそ、記憶を保ったままでこっちの肉体に復活する事が出来た訳だ。それと同じ事をやればいい。他の連中はそんな記憶を持たずに時間が巻き戻されるから、我々は好きにやり放題だ」

 二人のやり取りを聞きながら、祇園寺もニヤリと笑って、

「ま、そう言う事だ。ここで我々五人が、初めからその意思を強く持った上で、魂だけになれば、未来の知識を持ったまま過去に戻れるのだよ。…さて、碇、そうと決まったら早速儀式を開始すべきだな」

「そうするか。…では、アダム、リリス、服を脱げ」

「待って下さい」

 ゲンドウと祇園寺が振り向くと、リツコがやや顔をこわばらせている。

「祇園寺さん、『魂だけの存在』になる、と言っても、具体的にどうやってなるんです? 自殺でもするんですか?」

「そんな事はせんよ。儀式を行いながら、アダムとリリスのATフィールドを解放してS2機関を暴走させる。それと同時にこの場所に存在する四大のエネルギーを引き込めば、再びジオフロントは『黒き月』となる。後は自動的にいわゆる『人類補完計画』が再発動されると言う寸法だ。君たちが前に何回も行っていたのとは多少違うアプローチになるが、結果は似たような物だ」

「…そうですか。…わかりました……」

 俯きながら言葉を絞って行ったリツコの様子を見て、祇園寺は苦笑すると、

「御得心戴けたようだな。では始めるか。……アダム、リリス」

「ふふ、…仕方ないね……」

「……………はい…………」

「……………………………」

 ゆっくりと服を脱ぎ始めたアダムとリリスの様子を見ながらリツコは唇を噛み締めていた。

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 ゲンドウ達の様子を見ながら考え込んでいた加持が、持明院の方を向き、

「持明院さん、どうでしょう。今の話の内容から考えますと、連中を殺してしまうとかえってまずい事になりますね」

「うむ、正しいオカルティズムの認識に立つ限りは、本来、肉体を離れた魂などと言うものは存在しないが、現在は異常な事態だと考えるべきだな。連中を殺してしまったら、今の意識を持ったままの魂とも言うべき物が過去に帰ってまた同じ事をやろうとするだろう。連中は全員生け捕りにすべきだ」

「加持君、麻酔銃を使いましょう」

と、言ったミサトに、加持は頷いて、

「うむ、それがいい。それでだ、具体的にはどうやるか、だが……」

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 一方、アカシャの中では、サトシが歯噛みしながら、

「クソっ!! こいつっ!!」

 大作がてこずっていただけあって、この灰色のラミエルは只者ではない。とにかく動きが素早く、回転しながら強力なビームを放って来る。

 大作はラミエルを「でかすぎる」と言っていたが、必ずしもそれは正しくない。大きさと言う点ではサハクィエルの方が大きかった。しかし、総合的な攻撃力を含めた威圧感ではラミエルの方が圧倒的に大きい。それが大作の感覚を狂わせていたのだが、サトシもその「威圧感」を実感していた。

「だめだだめだっ! こいつにばっかり気を取られていたら、他の奴にやられてしまうっ!!」

 サトシはスクリーンにチラリと目をやった。ウィンドウの中には空を飛ぶ使徒の数が表示されている。

(後六つ!!)

 サハクィエルは自分が全部倒した。シャムシェルはアキコとリョウコが4体倒している。ラミエルは大作とゆかりが戦っていたが、今の所1体も倒せていない。やはり「別格」と言うべきか。

『大作君! 沢田さん! そっちに集中しなさい!! 他の使徒は私たちが牽制しています!!』

『ゆかり姉さん!! 頼むよっ!!』

 まるでこっちの心の中を見透かしたかのように、ゆかりからの無線が飛び込み、それに応える大作の声が響く。スクリーンを見ると、リョウコのヴァルナが最後に残った1体の黄色いシャムシェルを追い詰めていた。

(リョウコ!! 頑張れよっ!!)

 一方、アグニとプリティヴィの2機は、懸命に4体のラミエルをマントラレーザーで追い回している。

「綾小路さん!! 頼みます!! 形代! 頑張ってくれっ!!」

『まかせなさいっ!!』

『沢田くんっ!! そっちもがんばってよっ!!』

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「今だっ!!」

 モニタを注視していた時田の怒声がベースキャンプに響き渡る。

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ダアアアアッ!!

 JAがまるで忍者のように灰色のマトリエルの上に飛び乗り、左手で体を掴む。

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「撃てっ!!」

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 時田の号令に合わせてJAの右拳が垂直に叩き込まれる。

バスウウウウウウウウウウウウッ!!!!

ブシュウウウウウウウウウッ!!!

『ガリガリガリガリッ!!!』

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「よしっ!! 地上の使徒は後二つだっ!!」

「了解っ!!」

 時田と操作員は力強く叫んだ。

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 メインモニタをずっと見ていた五大が、

「残りはサキエル灰とイスラフェル灰、それからラミエルが5体か」

と、呟いて、中之島の方を向き、

「博士、流石にラミエルは別格ですな」

 中之島も頷くと、

「確かに。あいつのビームはとてつもないからのう。オクタも迂闊には近付けんわい……」

と、言いつつ、真剣な表情で再度モニタを見詰める。

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 JRL本部中央制御室。

 松下がモニタを見ながらインカムに怒鳴る。

「オクタ全機! 旧モデル3機は全部自動モードに切り替えろ!! 動きが少々荒っぽくなっても構わん!! 思い切って『捨て駒』として使え!!」

『了解!!』
『了解!!』
『了解!!』

 +  +  +  +  +

 マサキが、

「カーラ! 行くでええええっ!! 目標は真ん前におる灰色のラミエルや!!」

と、叫びながら灰色のラミエルに突っ込んで行く。

バスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスッ!!

ブシュウウウウウウウウウッ!!!

『ガリガリガリガリッ!!!』

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「使徒が消滅しましたっ!!」

 真由美も興奮の余り声が上ずっている。松下は思わず握り拳を振り、

「うむっ! この攻撃法は有効だ!!」

と、言いつつ、山之内の方を向いて、

「山之内君! 大殊勲だぞ!!」

「いや、まだ油断はなりません! 使徒を完全に殲滅するまでは気を抜いてはいけませんよ!!」

 そう言いながらも、山之内の声も興奮でやや震えていた。

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 サトシは思わず声を上げた。

「あっ!!」

 ずっと対峙していた灰色のラミエルの動きが突然明らかに鈍ったではないか。

「もらったっ!!!」
『今だっ!!』

 サトシと大作は同時に叫んで灰色のラミエルに突入する。

バスウウウウウウウウウウウウッ!!!!
バスウウウウウウウウウウウウッ!!!!

ブシュウウウウウウウウウッ!!!

『ガリガリガリガリッ!!!』

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「おおっ!! やったぞっ!!」

 五大も興奮の余り思わず叫んでいた。

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「沢田!! 次だ!!」

『おうっ! 赤を攻めるぞっ!!』

「了解!!」

 大作は操縦桿を再度握り締め、モニタを睨んだ。

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 ジョンとメアリーが青いラミエルの1体に突入する。

「メアリー! 行クゾオオオッ!!」

『了解!!』

バスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスッ!!
バスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスッ!!

ブシュウウウウウウウウウッ!!!

『ガリガリガリガリッ!!!』

「ヨシッ!! 次ダ!!」

『了解!!』

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 次々と入って来る戦果に、努めて冷静さを装いながらも、松下は内心の興奮を抑え切れずにいた。

「末川君! 現在の戦果はどうだ!?」

「極めて順調です! 39体の使徒の内、残っているのは後7体です!」

「うむっ!! この調子だ!! もう少しで使徒は全て殲滅出来るぞ!!」

「本部長!!」

 松下が振り向くと岩城が深刻な顔をしている。

「どうした!?」

「全て、と仰いますが、イロウル、バルディエル、レリエルは今の所現れていません! 連中はどうなったんでしょう!?」

「!! そうだったな! …そいつらを倒さん事には戦いは終わらんな……」

 その時、山之内の声が、

「イロウルとバルディエルに関しては多分心配いりませんよ」

「えっ!?」
「えっ!?」

 二人は思わず振り返った。松下が山之内の所に急ぎ足で歩み寄る。

「山之内君、どう言う事だ!?」

「今しがた、使徒の『断末魔の叫び』と思われるノイズを分析してみたんです。種族毎にそれぞれ違うノイズを出していますが、丹念にフィルターを掛けて調べた所、共通したノイズが2種類混ざっていました。これです」

 山之内がキーを叩くと、メインモニタにウィンドウが二つ開いた。それを見た松下は、

「おっ! これは! …一つはイロウルじゃないか!」

 山之内は頷き、

「そうです。そして、もう一つはそれに似た波形ながらも微妙に違うノイズです。恐らくはバルディエルでしょう」

「そうか! 細菌型の使徒と粘菌型の使徒が大型使徒と一体化していたからこそ、いとも簡単に分裂と再生をやってのけた、と言う事か!!」

「多分そうです。しかし、イロウルのノイズは前にオモイカネⅡが分析してくれたデータとの比較でほぼ間違いないと断定出来ると思いますが、バルディエルに関しては確証はありません。使えるデータは全て使って比較検討作業を行うべきでしょう」

「わかった。すぐに岩城君と協力して分析を開始してくれ。それから出来ればレリエルに関しても何か情報が欲しい所だな」

 その時、

「本部長」

と、割り込んで来た岩城が、

「普通に考えれば、それはどう見てもあの『黒い球体』が怪しい事は間違いありません。出来る限りの分析をやりましょう」

 松下は頷くと、

「うむ、確かにそうだ。その線で分析を進めよう」

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 地上に残った使徒も何故か極めてしぶとく、強かった。

 参号機の中では、シンジが、

「くそおおおおっ!!! こいつっ!!」

 ずっと灰色のサキエルを追い回していたが、他の使徒とは一味違い、やたらとすばしっこく逃げ回る上に、時折意外な反撃を見せて来る。流石のシンジも少々焦り出し、思わず叫んでしまったのだ。

 すかさずアスカが、

「シンジ! おちついてよ!! あせったらだめよ!!」

「えっ!?」

 シンジが横目でアスカを見ると、彼女は意外に冷静な顔で、

「こいつらだってバカじゃないわよ! 今まで仲間がさんざんやられたんだから、その分知恵もついてるにきまってるじゃない! じっくりせめないとだめよ!」

「!! …ご、こめん……」

 思いもよらなかったアスカの言葉にシンジは言葉を詰まらせる。

「あたしが操縦するわ! シンジは攻撃のチャンスを見ててよ!!」

「わかった!!」

 その時ウィンドウが一つ開いた。レイとカヲルの顔が映る。

『シンちゃん! アスカ! バックアップするわっ!!』

「たのむ!! 綾波!!」

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 2体に分裂した灰色のイスラフェルを弐号機と初号機が追いかける。しかしイスラフェルもしぶとく逃げ回り、中々攻撃のチャンスを掴ませてくれない。

 トウジもイラつき、思わず、

「なんちゅうやっちゃっ!! こいつ、こんなにしぶとかったんかっ!!」

 しかし、

「鈴原! 動きをよく見るのよ!!」

と、ヒカリがトウジを落ち着かせんと声をかける。

「そやけど、今のままやったらどうにもならんっ!! くそおおっ!!」

「………………」
(鈴原…………)

 ヒカリも過去に実戦経験がある訳ではないから自信を持ってトウジを説得出来る訳ではない。何とか返す言葉をみつけようと考えている時に、ウィンドウが開き、ナツミの顔が映った。

『鈴原さん!! さっきと同じ要領でじっくりしつこくせめるんですっ!! ここまで来たらがまんくらべですよっ!!』

「八雲!…… くそっ! わかったわいっ!! …委員長! ワシは攻撃のチャンスを見つけるのに集中するさかい、そっちは相手がおかしな動きをしよったらすぐに回避できるようによう見とってくれっ!!」

「うんっ!! わかった!!」

 その時、またもやウィンドウが開き、

『こちら時田!! 初号機! 弐号機! バックアップに入るっ!!』

「了解っ!!」
「了解っ!!」
『了解っ!!』
『了解っ!!』

 +  +  +  +  +

 ターミナルドグマでは、床に横たわった裸のアダムとリリスを前に、祇園寺が儀式を開始しようとしていた。

「では始めるぞ。……………アテエエエエエエ、マルクトゥゥゥゥゥ、ヴェ・ゲブラアアア、ヴェ・ゲドゥラアアア、ル・オラアアムウウ・エイメンンンンンンン………」

 +  +  +  +  +

 加持は頷き、

「よし、儀式を始めたな。踏み込むなら今だ」

と、ミサトと持明院を見た。二人とも無言で頷く。

「さっきの打ち合わせ通りに行く。俺が最初に飛び込んで連中の足元にレーザーを打ち込み、動きを止める。その後葛城が麻酔銃で連中を眠らせて、全員生け捕りにする、と言う寸法だ。いいな」

「いいわ」

 真剣な顔でミサトが答える。加持は続いて持明院に、

「持明院さんはバックアップをお願いします」

「わかった」

「では行くぞ」

 加持がドアを開けた次の瞬間だった。

ブウウウウンンッ!!

「!!!!!!!」

 ミサトは顔色を変えた。左腕の通信機が振動を始めたではないか。慌てて腕を上げてディスプレイを見ると、

”A.T.FIELD:127”
”PSYCHO BARRIER:127”

「しまった!!」

 思わずミサトは叫んだが、時、既に遅く、加持は既に飛び込んで走りながらレーザーを放っていた。

ブシュウウウウウウウウウウッ!!!!

 マントラレーザーがATフィールドとサイコバリヤーに干渉し、激しい音を立てる。

「なんだっ!!?」

 ゲンドウが叫びながら振り返った。

「ああっ!! しまったっ!!」

 加持は自分の目の前にATフィールドとサイコバリヤーが展開されている事に気付いたが、こちらも一瞬遅かった。

「うわあああっ!!」

ドスウウウッ!!

 加持はそのままエネルギー障壁に激突し、弾かれて後向けに転倒してしまった。

「貴様っ!! 加持っ!!」

 ゲンドウの怒声がターミナルドグマに響き渡る。

「持明院さんっ!! 加持君をっ!!」

 ミサトはそう叫びながらドアの中に飛び込み、レーザーを水平に乱射した。

ブシュウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!
ブシュウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!

「うぎゃあっ!」
「わあああっ!」
「きゃああっ!」

 ミサトが放ったマントラレーザーは減衰させられながらもATフィールドとサイコバリヤーを摺り抜け、立っていたゲンドウ達に軽い火傷を負わせた。突然の事に驚いた三人の悲鳴が響く。

「うわああああああああっ!!!」

 ミサトは叫びながら続けてレーザーを撃ちまくる。

ブシュウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!
ブシュウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!

「ミサトっ!!」
「葛城三佐っ!!」
「わわわわわっ!!」

 ゲンドウ達三人は叫びながら逃げ回る。その間にアダムとリリスは素早く起き上がって岩陰に身を隠していた。

 +  +  +  +  +

 その隙に、持明院は加持を抱えて扉の外に引きずり出すと、

「加持君、しっかりしろ!!」

 加持は、苦笑しながら、

「大丈夫です。ATフィールドかサイコバリヤーかはわかりませんが、弾き飛ばされました。少々腰を打ちましたが、大した事はありませんよ」

「わかった」

 持明院は頷くと、

「葛城君!! 戻れ!! こっちも結界を張る!!」

と、扉の中に向かって怒鳴った。

 +  +  +  +  +

 それを聞いたミサトは、

「了解!!」

ブシュウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!

と、レーザーを乱射しながら後退する。

ブシュウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!

 +  +  +  +  +

 左脚を軽く引きずりながら、アダム達とは別の岩陰に隠れた祇園寺は、激昂し、歯噛みしながら、

「クソッ!! 葛城ミサトめ! 八つ裂きにしても足りん奴だ!!」

 続いて、アダムとリリスの方を向き、

「アダム! リリス! その場所から離れるな! そのままATフィールドとサイコバリヤーを張っておけ!!」

と、怒鳴る。その時、ゲンドウがやって来て、

「祇園寺、どうだ?」

 見ると、ゲンドウは右手で左腕を押さえている。その後にはリツコもいる。祇園寺は、

「左脚を少し火傷したが大した事はない。お前の方はどうだ?」

「左腕をちょっとばかりやられた。赤木博士は右手だ」

 リツコは左手で右手を押さえている。祇園寺は頷くと、

「そうか。アダムとリリスは無事だ。不幸中の幸いだな」

「で、これからどうする?」

「アダムとリリスにATフィールドとサイコバリヤーを展開させておけば、連中も中には入って来れんし、こっちは五人とも岩陰だから、さっきの程度のレーザーなら何と言う事はない。このままの状態で儀式を再開する。その方が勝負が早い」

「わかった。そうしてくれ」

「アダム! リリス! そのままで聞け! このままの状態で儀式を再開するから、お前たちは気にせずそこにいて私の言う通りにしろ!!」

 別の岩陰にいるアダムとリリスが頷いたのを見た祇園寺は再び不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。

「アテエエエエエエ、マルクトゥゥゥゥゥ、ヴェ・ゲブラアアア、ヴェ・ゲドゥラアアア、ル・オラアアムウウ・エイメンンンンンンン………」

 +  +  +  +  +

「まずいわ! また儀式を始めたわよ!!」

 ドアの所から中の様子を見ていたミサトは声を荒げた。

「葛城、連中はまだATフィールドとサイコバリヤーを張っているか?」

 地面に腰を下ろしたままの姿勢で加持が尋ねる。ミサトは通信機を一瞥し、

「だめね。まだ全開よ。麻酔銃は撃ってもはね返されるし、連中は全員岩陰にいるから、レーザーは届かないわ。…持明院さん、なんとかなりませんか?」

「アダムとリリスは完全に心を閉ざしている。少々の念を送った所で何の影響もない」

「『密教の三密加持』は応用できないんですか?」

「同じ事だ。相手が意図的に心を閉ざしている場合、三密加持は効果を上げない。式神でも送り込めれば別だが、これだけバリヤーが強力では─」

と、ここまで言った時、突然持明院は表情を変え、

「ん? そうだ!! 一つやってみるべき手があったぞ!!」

「えっ!? それは!?」

と、身を乗り出したミサトに、持明院は、

「通信機を貸してくれ!」

「えっ!? は、はいっ!」

 +  +  +  +  +

「中之島博士! 地下から通信です!」

 マヤが振り向きながら叫んだ。中之島も大声で、

「音声を出してくれ!!」

「了解! …スピーカーに繋ぎました!」

「こちら中之島ぢゃ!」

『持明院だ! すぐに手を打って欲しい!』

「どうするのぢゃ!?」

 +  +  +  +  +

「京都財団の安倍とどうしても連絡を取りたい! なんとか中継してくれんか!」

 +  +  +  +  +

「京都か! 伊吹君! 電波状態はどうぢゃ!?」

 マヤは素早くコンソールを確認すると、

「まだ空中にラミエルが4体、地上にイスラフェル灰の2体とサキエル灰が残ってノイズを出しています! このノイズレベルでは短波通信は無理です!」

 それを聞いた中之島は、

「と、なると、使えるのはスピン波だけか。オクタに中継させるしかないと言う事ぢゃな。…よしっ! 綾小路君!! 応答せいっ!!」

 +  +  +  +  +

「こちら綾小路ですっ!!」

『京都財団とスピン波で通信する必要がある!! 出来る限り上昇してリピーターの役目をやってくれっ!!』

「了解しました!! 使徒に対する牽制攻撃は持続しながらのレベルでいいのですね!?」

『それで構わん! 高度を上げてマントラレーザーを撃ちまくれ!! 長距離射撃になるから照準にだけは注意するのぢゃぞっ!!』

「了解!! 上昇!!」

ブオオオオオオオオッ!!!!

 プリティヴィは猛烈な風切音を立てて上昇して行く。

 +  +  +  +  +

 こちらは京都財団本部の地下シェルター。

 通信が途絶えた中、安倍を初めとするスタッフがじっと待機していた時、

「安倍理事長!! スピン波通信が入って来ました!!」

 スタッフの叫びに、安倍も大声で、

「なにっ!? 繋げ!!」

『こちらオクタヘドロンⅡ・プリティヴィのパイロット、綾小路です! 京都財団本部、応答願います!』

「京都財団本部の安倍だ!! 聞こえるか!!」

『聞こえます! IBO本部から緊急通信です! 中継します!!』

「なんだと!? すぐ繋いでくれ!!」

『接続します! …………持明院だ! 安倍! 聞こえるか!!』

「元締!! 聞こえます!」

 +  +  +  +  +

「すぐに儀式を行ってくれ!! IBO本部のターミナルドグマに式神を送り込むんだ!! 但し、普通に送り込んだのではこっちのバリヤーに邪魔されて入れないから、大津の坂本にある黄泉比良坂を通じて送り込め!!」

『了解しました!! 送り込む式神の種類は!?』

「五行の式神を1体ずつ、合計5体だ! 相克が起こる順番で送り込め!! 但し最後は土になるようにしろ!!」

 +  +  +  +  +

「では、木金火水土の順番ですね!?」

『そうだ! すぐにやってくれ!!』

「了解しました!!」

『では通信を終了する。頼んだぞ!!』

「了解!!」

 通信を終えた安倍はスタッフの方を向くと、

「聞いた通りだ!! すぐに儀式の準備をしろ!!」

「はいっ!!」

 +  +  +  +  +

「中之島博士! 通信は終了した! 御協力に感謝する!」

『了解ぢゃ!! いつでも通信可能な態勢はとっておく!!』

「さて、と、これでいいな。…葛城君、通信機を返すぞ」

「はい、どうも。…でも、持明院さん、なにをなさるんですか?」

 通信の様子を聞いていたミサトは流石に辛抱出来なくなっていた。加持も心配そうな顔をしてこちらを見ている。

「ふふふ、まあ二人とも見ていたまえ。ちょっと面白い事になるぞ」

「はあ……」

 +  +  +  +  +

「テグネタ・アボノディカ・エレパ・サロニア・ロシュタ・ベリアル・ベルセブレブ・ウーベシュ・ルーセフェディア・ボルス・アソナンス、テグネタ・アボノディカ・エレパ・サロニア・ロシュタ・ベリアル・ベルセブレブ・ウーベシュ・ルーセフェディア・ボルス・アソナンス、テグネタ・アボノディカ………」

 祇園寺の呪文がターミナルドグマに響き渡る。

 +  +  +  +  +

 儀式用の法衣に着替えて地下道場に入った安倍を迎えたのは儀式の準備を行っていた多数のスタッフだった。リーダーと思しきスタッフの一人がこちらを向き、

「理事長、今準備が完了した所です!」

「よし、では退室してくれ」

「はいっ! 全員退室だ!」

 急いでスタッフ全員が退去した後の道場で、安倍は扉の内側から鍵を掛けた。そして祭壇の前に立つと一礼し、そのまま座布に腰を下ろして半跏座の姿勢を取った。

「…………」

 安倍は二、三度深呼吸をし、右手を握った。そしてその外側に左手を添えて叉手の形を作ると、背筋を伸ばして半眼になり、呪文を唱え始めた。

「逆しに行うぞ、逆しに行い下せば、向かうわ、血花にさかすぞ、みじんと、破れや、そわか、もえ行け、多へ行け、枯れ行け……」

 +  +  +  +  +

「くそおおおおっ!! これじゃラチがあかんっ!!」

 サトシはイラついていた。大作と一緒に赤のラミエルに攻撃を仕掛けていたが、段々敵は利口になって行っているとしか思えない動きで攻撃を躱し続けるのだ。

『沢田!! 落ち着け!!』

 大作からの無線が飛び込んで来た。サトシは慌てて叫ぶ。

「わ、わかってるって!!」

 +  +  +  +  +

 地上でも残った2体の使徒に対し、エヴァンゲリオンとJAが総攻撃をかけていたが、灰色のサキエルと灰色のイスラフェルは実に上手く逃げ回りながら反撃を仕掛けて来るのだった。

 モニタでその様子を見ながら、五大は思わず、

「クソっ!! 膠着状態かっ!! 後たったの6体なのにっ!!」

「また分裂せんか、そっちが心配じゃよ」

 中之島の声も暗い。

 +  +  +  +  +

「テグネタ・アボノディカ・エレパ・サロニア・ロシュタ・ベリアル・ベルセブレブ・ウーベシュ・ルーセフェディア・ボルス・アソナンス、テグネタ・アボノディカ・エレパ・サロニア・ロシュタ・ベリアル・ベルセブレブ・ウーベシュ・ルーセフェディア・ボルス・アソナンス、テグネタ・アボノディカ………」

 祇園寺は相変わらず呪文を唱え続けている。その様子を見ながら、ゲンドウは、

「もうすぐだ……。ユイ……」

「!」

 その呟きを耳にしたリツコは少々驚いたが、すぐに諦観したような顔に戻り、

(母さん、…私たち、みじめな母子ね……)

 +  +  +  +  +

「そろそろ、だな……」

 持明院は時計を見ながらニヤリと笑った。

 +  +  +  +  +

「…破れや、そわか、もえ行け、多へ行け、枯れ行け………」

 半眼のままずっと呪文を唱え続けていた安倍は突然カッと眼を見開いたかと思うと、力強く言い放った。

「今こそ飛び立て!! 木! 金! 火! 水! 土!!」

 +  +  +  +  +

「テグネタ・アボノディカ・エレパ・サロニア・ロシュタ・ベリアル…………」

「うっ、ううっ、あっ、……はあっ、はあっ……」
「ああっ、ううっ、ああっ、……ああっ、……ああっ……」

 祇園寺の呪文が響く中、アダムとリリスは激しく腰を動かしている。その時、

「!!! ぎゃあああああああああああっ!!!!」
「!!! うわあああああああああああっ!!!!」

 突然アダムとリリスは悲鳴を上げて飛び起き、頭を抱えて悶え苦しみ始めた。

 +  +  +  +  +

「アダム!! リリス!! どうした!!??」

「どうしたんだっ!!!」

 祇園寺とゲンドウも驚いて叫ぶ。

 +  +  +  +  +

「ぎゃああああああああっ!! ぎゃあああああああっ!!」
「うわああああああああっ!! うわあああああああっ!!」

 しかしアダムとリリスは何も答えない。叫びながら悶絶するだけである。

 +  +  +  +  +

「これは!!??」
「なんだ!!??」

 余りにも意外な状況にミサトと加持は驚いて思わず叫んだ。その時すかさず持明院が、

「葛城君! バリヤーはどうだ!!」

「えっ!?」

 我に返ったミサトが慌てて通信機を見ると、

”A.T.FIELD:0”
”PSYCHO BARRIER:0”

「消えていますっ!!」

「今だ!! 踏み込むぞっ!!」

「は、はいっ!!」

 持明院は信じられない程の素早い身のこなしでターミナルドグマの中に飛び込んで行った。ミサトも慌てて後に続く。

「うおおおおおおおっ!!」

ブシュウウウウウウウウウッ!!

「うわあああっ!!」
「うわあああっ!!」
「きゃあああっ!!」

 持明院の発射したレーザーがゲンドウ達の隠れている岩を直撃した。大きな音と共に水蒸気が立ち上る。

「どうだ!! 減衰されていないレーザーは少々骨があるだろうっ!!」

 持明院は岩に向かって再度レーザーを発射した。

ブシュウウウウウウウウウッ!! ブシュウウウウウウウウウッ!!

 +  +  +  +  +

「もう諦めろ!! 大人しく出て来い!!」

 持明院の怒声が響き渡る中、ゲンドウは歯噛みしながら祇園寺の方を見て、

「祇園寺、なんとかならんのか」

「私にはATフィールドもサイコバリヤーも使えんし、アダムもリリスもあの状態だからな……」

 祇園寺が顎でアダムとリリスのいる岩陰を指した。二人とも頭を抱えたまま地面に横たわっている。最早悲鳴を上げる気力すら失われてしまったようだ。

「ここまでか……」

 ゲンドウはがっくりと肩を落とした。その時、祇園寺が、

「クソっ!! こうなったらイチかバチかだっ! あいつのレーザーが早いか、こっちの念力が早いか、念力攻撃を仕掛けてやるっ!!」

「なにっ? そんな事が出来るのか?」

「わからん! しかし、今我々は本来は起こりえない『時間の輪』の中にいる! もしかしたら何かとんでもない現象が起きるかも知れん!!」

「祇園寺!!」

 ゲンドウの声が響く中、祇園寺は岩陰から飛び出すと、

「食らえっ!!」

「!!!!」
「!!!!」

 意外な祇園寺の行動に持明院とミサトが一瞬ひるんだ隙に、念力を放射せむと祇園寺は身構えたが、その次の瞬間、

「!!!!!!!!」

 何と、持明院の顔を見た祇園寺は凍り付いたように硬直し、そして、

「貴様!! 伊集院かっ!!!!」

「えええええええっ!!!??」

 ミサトも余りの驚きに思わず叫んだ。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'祈り(Ver.4b) ' composed by VIA MEDIA

二つの光 第二十一話・逆転
二つの光 第二十三話・執念
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