第四部・二つの光




 その頃、第2新東京に向かって中央高速道路を走るJAの姿があった。上空には戦自のジェットヘリ2機が飛行している。

「一体、どうなってんだ………」

 モニタを見ながら呟いた加持に、加納が、

「生きている人間はおろか、死体すら見かけんとはねえ……」

「全くですね。どう言う事なんでしょう……」

と、時田も深刻な表情でモニタを見ている。

 加持は表情を緩めないまま、短波無線機のマイクを手にし、

「こちらJAの加持、戦自308、309応答願います」

『こちら戦自308。感度良好』

「短波無線機が何とか使えそうですな」

『そうですな。とにかく一安心です。現在の所、第3とも通信可能です』

『こちら戦自309。こちらも感度良好です』

「こちらで確認する限りでは、人間の姿を全く見かけません。道路上に放置された車は全て無人です」

『こちら308。当機も生存者は確認しておりません。引き続き監視を続けます』

「了解。……こちら加持。IBO本部応答せよ」

『こちらIBO本部伊吹です』

「今の通話はモニタ出来たか?」

『はい。多少ノイズは混ざっていますが充分モニタ可能です』

「回線は繋いだままにしておいてくれ。以上だ」

『了解』

 2機のジェットヘリとJAは道を急いだ。

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第八話・導き

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 IBO本部中央制御室。

 マヤが振り向き、

「本部長、お聞きの通りです。現在の所、第3以外の場所では生存者も死体も発見されておりません」

 五大も、首を捻り、

「理解し難い状況だな……。葛城君、どう考える? やはりイロウルの仕業だと思うか?」

 深刻な表情のミサトも、

「わかりません。…そうかも知れませんし、あるいは、レリエルに飲み込まれてしまったのか、とも……」

「そうだな。余りに情報が少な過ぎる。これだけでは何とも言えんか……」

「いずれにしても、とんでもない状況である、と言う事だけは間違いありませんね。第2や京都はどうなっているのか……」

「全くだ……。所で、非常事態宣言の方はどうなっているんだ?」

「警察と戦自からの情報ですと、市民をシェルターに避難させたままにしておくのはもう限界と見ているようです。それで、間もなく特別戒厳令に変更して、外出禁止の条件で一応帰宅を許可する方針のようです」

「そうか。……いずれにしてもこのままではこっちからは動けん。何でもいいから情報が欲しい所だな……」

「はい……」

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 駒ケ岳山中の某所に停めた車の中では、ゲンドウ達が密かに「時」を待っていた。

 助手席のゲンドウが振り返り、アダムに、

「アダム、海外の様子は?」

「順調だね。イロウルがうまくやっているよ。人がバタバタ死んで行ってる。エボラ出血熱と同じような症状だ。ほかの使徒はまだ隠れているし、量産型は待機したままだよ」

「そうか。よかろう」

「それから、こっちではレリエルもちゃんとやってくれているよ。でも、第3以外の人間を全部飲み込ませるなんて、ちょっと遊びが過ぎる気もするけどね。ふふふ……」

 ゲンドウは、続いてリリスに、

「リリス、向こうはどうだ?」

「……大型使徒は順調に破壊活動を続けています。……イロウルは通信網や電力網を破壊していますし、こちらと同じように人間にも取り付き始めています。そろそろバルディエルも動き出すと思います……」

 それを聞いた祇園寺は、

「そうかそうか。わははは。ところで、『性欲』の方はどうだ?」

 相変わらず無表情なリリスが、

「……そろそろ暴走し始めるころだと思います……」

 アダムは苦笑して、

「こっちはまだそれほど感じないね。もうすぐだと思うけど」

 祇園寺は頷き、

「うむ、まあよかろう。それも時間の問題だ。わははははは」

 その時、ゲンドウが、

「リリス、零号機はどうなった?」

「!……」

 思わず息を呑んだリツコを尻目に、リリスは平然と、

「……わかりません。……なにも感じません……」

 祇園寺は大笑いし、

「わははは。碇、心配するな。『ビッグバン』の時が来ればすべてカタが付く。もうすぐだぞ。わはははは」

「……ふっ……」

「………………」

 ゲンドウは自嘲とも取れる笑いを漏らしたが、リツコは相変わらず暗い顔のまま黙っているだけだった。

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 こっちはサトシ達の世界である。月の裏側に集合した6機は「次元の通路」に飛び込もうとしていた。

 アカシャの中で、真顔の中之島がオモイカネⅡのモニタを睨み、

「5番目のCPUが動作を開始しおった。沢田君、何が起こるか判らんから、しっかりウィンドウを見ておれよ」

「了解しました」

 サトシが頷いた時、中之島のオモイカネⅡの画面に表示されたマントラのシンボルが円を描くように右回りに動き、スピーカが低い唸り音を発し始めた。

「おっ、これは何ぢゃ!?」

「*−* *****  *−* *****  *−* *****  ……」

 スピーカの唸り音に合わせ、画面の下方にオシロスコープのような波形が表示され始めた。中之島が表情を変える。

「おおっ!! この波形は! マントラ、『オーム・アヴァラハカッ』の波動ぢゃ!! 全機! しっかり掴まっておれ!! 何かショックがあるかも知れんぞ!!」

 その時、

「わあっ!!」

 マントラのシンボルが映るウィンドウが突如激しい光を発し、ウィンドウを見ていたサトシは思わず眼を閉じて叫んだ。

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「きゃああああっ!!」

 エンタープライズのブリッジのメインモニタも激しく光り、監視していた由美子が手で顔を覆う。

「………」

 恐る恐る眼を開けてみると、そこには6機の姿はない。

「消えた………」

「………………」

 ライカーも呆気に取られたような表情でモニタを見ていた。

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 第3新東京を発って約1時間後、第2新東京に到着したJAと戦自の調査班は、薄々予想していたとは言うものの、その余りの状況に呆然とするしかなかった。

 モニタを見ながら、吐き捨てるように加持が呟く。

「…………ゴーストタウン、か………」

「なんて事だ………」

 時田もそれだけ言うのがやっとだった。加納も操縦員も絶句している。

 第2新東京にも全く人の姿は見えなかった。時折、野良犬や鳥は見かけるが、人間は全て消え去っていたのである。にも拘わらず、「マーラのノイズ」も、「使徒の波動パターン」も全く検出されない。

「加納さん、とにかく、調べられるだけ調べてみましょう」

 加持の言葉に加納は頷き、

「そうですな……」

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 IBO中央制御室。

 加持からの連絡を聞いた五大は、

「そうか。やはり生存者はおろか、死体さえ見つからんか」

『はい。街全体を隅々まで探す時間的余裕がないので、政府庁舎付近を重点的にスキャナで調べてたのですが誰も見つかりませんでした。ヘリによる上空からの調査でも同様です。スキャナにはマーラのノイズも使徒の信号パターンも検知されなかったので、安全と判断して地下のシェルターにも入ってみたのですが、そこにも誰もいません』

「やむを得んな。で、京都にはいつ向かう?」

『これから出発する予定です。戦自のヘリにも同行してもらいます』

「了解した。しかし意外だな。なんで短波無線機が問題なく使えるんだ? 予想以上に感度は良好だぞ」

『ええ、私も意外でした。念のためこちらの有線通信設備もチェックしてみました所、機器そのものは壊れているのですが、先程申しましたように、ノイズは乗っていませんし、使徒の信号も検知されておりません』

「うーむ、少なくともそこではイロウルはもう活動していないと言う事か……。まあ、いずれにしても、どこに潜んでいるか判らんからな。充分注意したまえ。気を付けてな」

『はい。では』

 ミサトも真顔で、

「加持君、気を付けてね」

『ああ、気を付けるよ』

 ここで五大が、ミサトに向かって、

「葛城君、零号機救出作戦は1時間後の予定だったな」

「はい」

「ではそろそろ準備にかかりたまえ。エヴァは3機とも出撃態勢で待機だ」

「了解しました」

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 5機のオクタヘドロンとエヴァ零号機は「暗黒の次元」を漂っていた。周囲には何も光源がないのに、6機はぼおっと光を発している。

「ここが『次元の通路』か………。全くの闇の中ぢゃのう……。沢田君、こんな所なのか?」

と、流石の中之島も少々驚き顔である。サトシは頷き、

「はい、感じとしては確かにここです」

「よし、とにかく次の段階に進もうかの。まずは確認からぢゃ。全機無事か!?」

『こちら綾小路、プリティヴィは正常ですわ!』

『形代です! アグニも異状なしです!』

『こちら草野、ヴァーユも異状ありません!』

『こちら綾波です! エヴァ零号機も正常です!』

『こちら北原! ヴァルナも異状ありません!』

「よし! 北原君! 形代君! 2機でエヴァ零号機を両側から抱えて、反重力フィールドで包み込むのぢゃ!」

『了解!』
『了解!』

「綾波君、渚君、余計な動きは無用ぢゃ。飛行はオクタ2機に任せるのぢゃぞ!」

『了解!』
『了解!』

「オクタ全機、自動操縦にしてアカシャのナビゲーションに従え!」

『了解!』
『了解!』
『了解!』
『了解!』

 指示通りの態勢となった各機を確認した後、中之島は、

「よし、飛行準備は完了ぢゃな。次はフェイズ・スキャナか………」

と、キーボードを操作するも、

「うーむ、駄目ぢゃな。時間の流れが合わんのか、他に理由があるのか、通信は出来んようぢゃ。少々見通しが甘かったかのう……。やむを得ん。とにかく行こうかの。沢田君、手動操縦にせい」

「えっ? 手動ですか?」

「そうぢゃ。ナビゲーションには儂のオモイカネⅡを使う。儂の指示通りに進め」

「は、はい。了解しました」

「うむ、では儂のオモイカネⅡのナビゲーション情報をそちらのウィンドウに転送するぞよ」

「はいっ!」

 中之島がキーボードを操作すると、アカシャのスクリーンに開いたウィンドウの中にマントラのシンボルが表示された。今回は五つのシンボルが縦に並んでいる。

「沢田君、このシンボルじゃが、下から順に、□、○、△、∪、∩、と並んでおるじゃろ」

「はい」

「これを上向きの矢印と考えるのぢゃ。つまり、まっすぐ前に進むと考えれば、この五つのシンボルは全て重なって、"□"が一番最後になるから、ウィンドウには"□"だけが映り、その他の四つは隠れる筈ぢゃ。分かるか?」

「は、はい、分かります」

「よし、ではそうなるように進め。こちらでも進行方向は常にモニタしておく。もし進行方向がズレたら指示するから、修正しながら進むのぢゃぞ」

「分かりました」

「では出発進行ぢゃ。進め!」

「りょ、了解っ!」

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 6機は暗黒の次元の中をゆっくり進み始めた。

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 IBO中央制御室。

 ミサトが、スタッフに向かって、

「では、零号機救出作戦を開始します。マヤちゃん、エヴァの出撃準備は?」

「全機完了です。市東部の住民の避難も完了しています」

「パイロット全員準備いいわね!? 全機、緊急脱出装置のボタンとインジケータを確認しなさい!」

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 トウジとヒカリは、

「弐号機の鈴原と洞木、準備完了です! 全システム正常!」

「脱出装置も正常を確認しました! 指示を待ちます!」

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 ケンスケとナツミは、

「初号機の相田、八雲、準備完了! 全システム正常です!」

「脱出装置も正常です!」

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 続いてミサトは、参号機の状態を示すウィンドウを睨み、

「シンジ君! 準備オーケーね!?」

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「はいっ!! 参号機全システム正常ですっ! 脱出装置も確認しました!」

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 それを聞いたミサトは、

「日向君! 波動発生開始して!」

「了解! 波動発生開始!」

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ブウウウウウンンンッ!!!

 市東部の山麓では、監視カメラが見守る中、発振機が唸り音を発し始めた。

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 日向が、モニタを見詰めたまま、

「パターンオレンジ確認。模擬波動は正常に動作しています」

 ミサトは頷き、

「了解。もし数値におかしな状態が現れたらすぐに停止するのよ」

「了解」

 続いてミサトは、マヤに、

「マヤちゃん、どんな変化も見落とさないように、スキャナの状態をモニタしておいて」

「了解しました」

 更に、青葉に向かって、

「青葉君、監視カメラ、しっかり見ててね」

「了解」

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 第2新東京を発って約1時間半後、京都に辿り着いたJAと戦自のヘリは、名神高速道路から国道1号線に入り、東山までやって来ていた。

「この山を越えたら市街地ですよ」

 加納は淡々と言ったが、全く人気のない状態を改めて眼にしてしまった落胆は隠せない。加持も暗い顔で、

「財団本部はどうでしょうね……」

「わかりません。スピン波通信も通じませんからね……。とにかく本部へ行きましょう……」

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 IBO本部中央制御室。

「うーむ、1時間以上経ったが何も起こらん、か……」

 五大の声は暗かった。ミサトの表情も沈んでいる。

「そうですね……。……とにかく継続します」

「うむ」

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 シンジは参号機の中でずっと祈り続けていた。

(………綾波、渚君、……帰って来てよ………)

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 加持達は京都財団本部に到着した。JAは本部前で停止したが、2機のヘリは上空を旋回しながら監視を続けている。

 JAのコックピットの中で、モニタの数値を見ていた時田が、

「………うーむ……」

と、呟いた後、振り返り、

「取り敢えずマーラのノイズも使徒の信号波も検出されていないか……。どうします? 降りてみますか?」

 コックピットに一瞬の沈黙が流れた後、加納が口を開き、

「私が降ります。時田さんと加持さんはここにいて下さい」

 しかし加持はすかさず、

「いや、私も行きますよ」

「そうですか。……では、宜しくお願い致します」

と、頷いた加納に、加持も、

「ええ、こちらこそ」

と、頷き返す。そして無線機のマイクを手にし、

「戦自308応答願います」

『こちら308。感度良好』

「こちらのメンバー二人で財団本部に調査に行きます。監視をお願い致します」

『了解しました。武器は必要ではありませんか?』

「おっ、それは有り難い。お借り出来ますか?」

『では隊員を一人付けます。お二人の分の武器もお貸しします』

「了解しました。有り難うございます」

『309、聞いていたな? 着陸してくれ』

『了解』

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 5機のオクタヘドロンとエヴァ零号機は相変わらず暗闇の中を飛び続けていた。流石のサトシもかなり不安が募って来ている。

「博士、どうなってるんですか? まわりは何も変化がないですけど……」

「オモイカネⅡの5番目のCPUは順調に動作しておる。その指示通りに進むだけぢゃ」

「はい…」

 その時だった。モニタを見ていた中之島が、

「おっ? 変化があったぞ! ここぢゃ! 停止しろ!」

「りょ、了解っ!! 全機停止!!」

 サトシの叫びに呼応して他の5機もその場に停止した。アカシャのナビゲーション用ウィンドウに映るマントラのシンボルは"□"だけが見える状態で停止しており、スクリーンに開いた5つのウィンドウに映る六人も息を凝らして事の推移を見守っている。

 中之島が、モニタを凝視したまま、

「これは……?」

 サトシは体を捻って中之島が操作しているオモイカネⅡのモニタを見た。。

「博士、これは?……」

 画面ではマントラの五つのシンボルが、今度は左回りで円を作るように回転している。そして下方には波形が表示されていた。

「今まで立体的に進行方向を示しておったのぢゃが、ここに来て突然左回りに回転を始めたのぢゃ。更に、ここに示されている波形は……、おおっ! これは『アヴァラハカッ・スヴァーハ』ぢゃ!」

「えっ!? じゃあここは!?」

 その時、

「おおっ!? これは!!?」
「あっ!?」

 二人が見詰める中、突然波形が流れ始め、五つのシンボルは規則的に点滅し始めた。更にはスピーカからも、

「***** **−*  ***** **−*  ***** **−*  ……」

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 ライトを手に京都財団の地下室に入った加持と加納、そして戦自隊員の三人はシェルターの入口に辿り着いた。加納が他の二人を見ながら口を開く。

「では、扉を開けます」

 加持と隊員が無言で頷いた。加納は電気錠にカードを通し、暗証番号を押したが何の反応もない。

「だめか。やはり電源が断たれているようだな。……やむを得ん、手動で強制的に開けます」

 加納はそう言うと、ポケットから鍵の束を出し、扉の横にある小さな扉の鍵穴に鍵を差し込み、扉を開いた。

「この中に更に鍵穴が10個あります。その全てに正しい鍵を入れないと開かない構造になっているんですよ。おまけに、2回間違うと安全装置が働いて開錠は不可能になる仕掛けなんでね。慎重にやらないと……」

 加持と隊員が見守る中、自分に言い聞かせるように呟きながら、加納は鍵穴に鍵を差し込んで行く。そして、最後の鍵を差し終わった時、

「カチッ!」

 分厚いドアの中から小さな音が聞こえた。加納は頷くと、

「よし、これで開きます。後はこのハンドルを回せば………」

ギイッ……

 微かなきしみ音を立て、扉が手前にゆっくりと開く。

「ああっ!!!」
「ああっ!!!」
「ああっ!!!」

 +  +  +  +  +

 IBO本部中央制御室。

 暗い表情のミサトが溜息をつき、

「もうすぐ2時間か……。だめねえ……。マヤちゃん、そっちはどう?」

「全く変化がありませんね……」

 しかしその時、

「!!!! これはっ!!!」

 マヤの叫び声にミサトと五大が顔色を変え、

「どうしたのっ!!?」
「なにかあったかっ!!?」

「パターンオレンジの信号の中に別のパターンが混ざり始めました! こ、これはっ!『パターン灰色』ですっ!!」

「マーラなの!!??」

「いえ、それが、その混ざり方が規則的なパルスなんです! まるでなにかモールス信号のような感じです!!」

「なんだと!? 解析出来るかっ!!?」

「マギに解析させますっ!!」

 マヤは慌ててコンソールを操作する。その時五大の心に閃く物があった。

「そうだ! そのパルスを音にして出せるかっ!?」

「音声出しますっ!」

「***** **−*  ***** **−*  ***** **−*  ……」

「なんだこのリズムは?! どこかで聞いたような………」

 その時、監視カメラの映像をモニタしていた青葉が、

「ああっ!! 現場付近に黒い水溜りのようなものがっ!!」

「レリエルなのっ!!?」

 ミサトの叫び声に日向が呼応し、

「発振を中断しますっ!!」

「待て!!」

 瞑目して音声に集中していた五大が日向を制する。

「このリズムは………、マントラだ!! マントラのリズムだ!!」

「マントラ!!??」

 ミサトは驚いて叫んだ。

 +  +  +  +  +

 地下シェルターの扉を開けた三人は仰天した。そこにあったのはこちらに向かって銃を向けた安倍ハルアキ他数人の財団職員の姿だったのだ。

「理事長!! ご無事でしたか!!」

「加納!!」

「侵入者」が敵ではないと判った安倍と職員がほっとした表情で銃を降ろすのを見た戦自隊員が口を開く。

「職務上お聞きします。その銃は何ですか?」

 安倍は、銃を差し出し、

「地下の研究所で使っていたレーザー発振器を使って急遽作ったレーザーライフルですよ。しかし我々はプロではありませんからね。ちゃんと使いこなせるかどうか不安でしたが」

「そうですか。了解しました」

と、隊員も頷く。ここで加持が進み出て、

「安倍理事長、しばらくでした。よくご無事でしたね」

 加持の言葉に安倍はやや表情を緩めたものの、すぐに真顔になり、

「いや、それが、幸運にして我々は助かりましたが、京都全体を見ればどれだけ助かったのか……。外の様子はどうでしたか?」

「上には人間の姿は全く見当たりません。京都だけではなく、第2新東京も、名古屋も、その他通過した全ての場所で、誰一人、人間の姿を見かけませんでした」

「やはり……。京都の他のシェルターはどうでしょうか?」

「まだ調べていません。生存者がいる可能性があるのですか?」

「ええ、我々が生き残れたと言う事は、地下シェルターに入ってさえいれば生き残れている可能性はあります」

と、頷いた後、安倍は表情を変え、

「そう言えば、第3新東京はどうなんですか?」

「第3は一応無事ですが、『籠城』している状態です。…とにかく、ここにいるのは危険なのではありませんか? 生存者は全員第3に避難すべきです」

「確かに。ここのシェルターのエネルギーは殆ど残っておりませんからな…。しかしどうしたものか…。そうだ。おい、誰か元締をお連れしてくれ」

「はい」

 一人の職員が頷いて部屋の奥に消えた後、加納が口を開き、

「元締はどうなさっておられたのです?」

「ずっと奥の部屋に籠って結界を張っておられたのだ。それで使徒の侵攻をかなり食い止められたのだよ」

「元締をお連れしました」

 職員の言葉に振り向いた加持は、

「!?…………」
(おや? この人、どこかで……)

と、思わず持明院の顔をまじまじと見詰めた。

「加納、無事だったか」

「元締もよくご無事で」

 その時、加持の訝しげな表情に気付いた加納が、

「おや、加持さん、どうなさいました?」

「! ……いや、なんでもありません……」

と、加持は慌てて否定したが、その心中では、

(確かにどこかで見たような気がする……)

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 駒ケ岳山中。

 突如、祇園寺が、

「むっ!? なんだこの波動は!!?」

 ゲンドウが顔色を変え、

「どうした祇園寺?! なにがあった?!」

「この波動は………、この波動は………、あいつだ!!! 中之島だ!!」

「なにっ!!? 中之島だと!!?」

 すかさずゲンドウはアダムに向かって叫んだ。

「アダム!! すぐに霊波を送れ!! 使徒と量産型を全部呼び寄せろ!!」

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 モニタを見ていた中之島が、大声で、

「このリズムはマントラぢゃ! 『アヴァラハカッ・スヴァーハ』、間違いない! 終了のマントラぢゃ!!」

「博士! ではここが出口だとっ!?」

 サトシも怒鳴り声を上げた時、突如アカシャのコックピットは極めて強い光で満たされた。

「わあああああっ!!」
「うおおおおおっ!!」

『わあああああっ!!』
『きゃああああっ!!』

 思わず眼を閉じたサトシと中之島の耳に、誰の声とも判らない悲鳴が同時に飛び込んで来る。

 +  +  +  +  +
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 五大が、大声で叫ぶ。

「青葉君!! 監視カメラの映像をメインモニタに映せ!!」

「了解!!」

 青葉がコンソールを操作したその次の瞬間だった。

「わああああああああああっ!!!」
「きゃあああああああああっ!!!」

 突然メインモニタが極めて強い光を発した。中央制御室に叫び声が響き渡る。

「………ど、どうなったの……」

 恐る恐る眼を開いてモニタを見たミサトは、

「!!!!!! ああああっ!! あれはっ!!?」

 スタッフ全員が息を飲んだ。信じ難い事に、モニタには6機の巨大な人型の物体が映っているではないか。

「まさか!! オクタヘドロン!!?」

「なんだとっ!!? ああっ!! 零号機もいるぞっ!!」

 流石の五大も大声で叫んでいた。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)

二つの光 第七話・旅立ち
二つの光 第九話・因縁
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