第二部・夏のペンタグラム




「あなたたち! だれなのっ!!!」

 ナツミはそう叫ぶと二人の所に向かって駆け出した。しかしその二人は風のような身のこなしで踵を返して走り出すと、あっと言う間に次の細い道の曲がり角を曲がってしまった。

「ナツミっ!!!」

 アスカが慌ててナツミの後を追う。しかしナツミの足は思ったより速く、既に曲がり角の手前の所まで辿り着いていた。

「ナツミ!! まってっ!!」

 アスカの言葉を無視してナツミは曲がり角を曲がろうとしたが、

「あっ!!!」

と、思わず叫んで立ち止まる。そこにアスカが追い付き、

「どうしたのっ!!」

「いない……」

「えっ!?」

 アスカも慌てて道の先を見た。しかしそこには誰もいない。

「そんな!! この道はかなり先までまがるとこなんかないのに!!」

 この道の両側のビルはまだ全てシャッターは閉まっている上、咄嗟に二人が身を隠せそうな所も見当たらない。流石のアスカも顔色を変えた時、丁度シンジ達三人が追い付いた。

「アスカ! どうなったのっ!!??」

と、シンジも顔色を変えている。アスカは、声を荒げ、

「いないのよ!! この道はずっと先までまがるとこなんかないのよ!!」

「どう言うことなんだ!!」

 シンジは思わず叫んでいた。

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第五十三話・多事多難

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 アスカが、真剣な顔で、

「とにかくこのあたりを手分けしてさがしましょ!!」

 しかしレイは、

「ちょっと待って! バラバラになっちゃまずいわよ!!」

「あ、そっか!! ……でも、むこうは二人よ!! 手分けしてさがさないとみつからないわよ!!」

「そうか……、それもそうよね……」

 その時ナツミが、

「あっ、そうだわ! みんな、スマートフォン持ってますよね!」

 レイは頷き、

「あっ、そうね! スマートフォンで連絡をとるようにしたらいいんだわ!」

 カヲルも、

「そうだよ! それがいいよ! トランシーバモードにして、つなぎっぱなしにしておけばいい!」

 アスカも、

「そうね! そうしましょ!!」

 ここでシンジが、

「あっ、そうだ! 本部に連絡しておいた方がいいんじゃない!?」

 それを受け、アスカが、

「うん! じゃ、さがしながらあたしが連絡しておくわ! みんな! 手分けしてさがして!!」

 五人はそれぞれ散って行った。

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 シンジ達が「謎の二人」の後を追っている状況を、大通りの反対車線に留めた車の中からずっと見ている三人の人物がいた。

 リツコが、ゆっくりと、

「……碇司令……」

「なんだ」

「なぜアダムとリリス、いえ、『渚カヲル』と『綾波レイ』をわざわざシンジ君達の前に行かせたんです? 前にアダムが『シンジ君に会いたい』って言った時、『シンジに会って何をするつもりだ』と言うような事を仰っておられたのでは碇司令ではありませんの?」

「ふっ、これも陽動作戦だ。連中を動揺させておけば、エヴァの操縦に支障が出るし、IBOを攪乱するのにも持って来いだからな」

「……そうですの……」

「どうした。なにか腹に一物あるような顔をして」

「いえ、別に……」

 しかし、ここで祇園寺が、

「おいおい、碇、どうせ言い訳をするのならもう少し上手に言ったらどうだ? そんなセリフじゃ、私でなくても、赤木博士にだって丸わかりだぞ。くくくく」

 ゲンドウは、やや慌てて、

「なにを言う」

「いくら縁が薄いとは言え、息子は息子だ。最後に一目顔を見ておきたい、と言うだけの事だろうが。それで、こうやって息子をこっそり見る口実として、アダムとリリスをダシに使った、と言うだけなんだろう。くくくくく」

「ふっ、やくたいもない事を」

「どうやら図星らしいな。わはははは」

「ふっ、やはりお前は欺けんな。……しかしな、一つだけ抜けている点があるぞ」

「おっ? どう言う事だね?」

「シンジもさる事ながら、私が最後に見ておきたかったのはレイの方だ」

 ゲンドウの言葉に、リツコは、

「!……」

 祇園寺は、ニヤリと笑い、

「おっ、そう来たか。わはははは。正直でよろしい。わはははは」

 その時リツコが、

「ではそろそろ行きますわ。アダムとリリスが待っていますでしょ」

 やや急加速気味に車は発進して行った。

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「二人」を探して走り回っていたシンジは、

「くそっ!! どこに行ったんだ! はあ、はあ……」

 流石に息も切れて来る。一呼吸入れて連絡を取ってみようとポケットに手を入れてスマートフォンを探ったが、

「!!! ない! しまった! 落としたのか!! いや!? カバンの中?!」

 慌ててカバンの中を見たがそこにもない。

「どうしよう……。そうだ! とにかく本部に電話を入れよう! 公衆電話!」

 シンジは公衆電話を探すべく再び駆け出した。

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 IBO情報部。

トゥルルル トゥルルル トゥルルル

「はい、IBO情報部服部です。……はい、暫くお待ち下さい。……加持部長、警察からです」

「おっ、すまん。……はい、加持です。…………!! …………はい、…………はい、…………了解しました」

「何かわかりましたか?」

「仙石原のホテルの一つがおかしい、との事だ。なんせ場所が場所だけに、警察も簡単には踏み込めないらしくてな、絞り込むのに手間がかかったらしいが、これから乗り込むらしい」

「そうですか。で、本部長には連絡を?」

「俺が伝えるよ」

「了解しました」

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「シンジ!! こたえなさいよ!! ……だめだ……。ええいっ!! こんなときに、バカシンジのやつ!!」

 何度呼びかけても答えないシンジにアスカがイラつく。

『こちら綾波! こっちもシンちゃんとは連絡がとれないわ!』

『こちら八雲! こっちもだめですっ! 碇さんと連絡とれませんっ!』

『渚です! こっちもだめだよっ!!』

「もう! バカシンジ! もしかしたらスマートフォン落としたんじゃないのっ!! ……もういいわっ! とにかくさ、あたし、本部に連絡するわ! わるいけどそのあいだ三人でさがしててよ! そのあと本部の指示にしたがいましょっ!!」

『綾波了解!』

『渚了解!』

『八雲了解!』

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 アスカからの連絡を受けたミサトは、愕然として、

「アスカ! その二人は間違いなくアダムとリリスだわ!! 深追いしちゃだめよっ!! すぐに本部に来なさい!!」

『わかったわっ!! みんなに連絡してすぐ本部に行くから!! あっ! そうだ!! バカシンジのやつ! スマートフォンおとしたのか、どうしても連絡がつかないのよっ!!』

「なんですって!? わかった! それはこっちで何とかするわっ! あんた達四人はすぐにこっちへもどりなさいっ!!」

『了解っ!!』

「レナちゃん! 聞いた通りよ! アダムとリリスが現れたわ! それと、シンジ君が行方不明なの! 私は加持君に連絡してシンジ君を探す段取りを頼むから、あなたは学校に連絡してすぐに鈴原君と洞木さんと相田君を呼んで!」

「はいっ! わかりました!」

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 学校でレナからの連絡を受けたトウジは、

「わかりました!! すぐに行きますさかい!」

『洞木さんと相田君への連絡、頼んだわよ!』

「了解!!」

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 情報部。

『そう言うわけなの! とにかくシンジ君を一刻も早く見つけないと!』

「そうか、わかった。警察にも協力を依頼するよ」

『頼んだわよ!』

 ミサトからの電話を切った加持は、深刻な顔で警察の番号を押した。

「…………」

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「電話! 電話はどこだ?! あっ! あった!!」

 公衆電話を見つけたシンジはすぐさま駆け寄って受話器を手にしたが、

「なんだ!?」

 その時感じた何とも言えない気配に振り向くと、

「あっ! 綾波! そこにいたの!」

 シンジから少し離れた所にレイが立っている。しかし彼女は無表情のままこちらを見ているだけだ。

「綾波!? えっ!! えええっ!!」

 よく見るとその「レイ」は、シンジと共に戦っている「今のレイ」ではなかった。青い髪、無表情な顔、しかし服装や姿形はレイそのもの。

「!!!! リリス!!」

 思わずシンジが叫んだ時だった。

ウーーーーーーーーーーーッ!!!

『本日午前8時40分、東海地方を中心とした関東中部全域に、特別非常事態宣言が発令されました……』

「ええっ!! 使徒??!!」

 緊急放送に驚き、反射的に放送が流れて来た方向を見てしまったが、

「あっ!」

 すぐに自分の「行動」の「失敗」に気付き、シンジは再びリリスがいた方向に顔を戻す。しかし、既にそこには誰もいない。

「!!! いない!!! ……そうだ! とにかく電話だ!!」

 慌ててIBO本部の番号を押したが、緊急事態のために電話は繋がらない。

「しまった!! どうしよう……。えっ!!??」

 その時、シンジの心に油然と「ある出来事の光景」が浮んで来た。

「この場所!! そうだ!! 僕が最初にここに来た時に電話した場所だ!! あっ! そうだ!! あの時も!」

 繋がらない電話。使徒の襲来による非常事態宣言。その時一瞬出会った「青い髪の制服姿の少女」。紛れもなくその場所は、「あの場所」だったのだ。

 シンジは思わず戦慄した。しかし今はそれに関して考えている暇などない。

「……どうしよう、どうしたらいいんだ。後どれぐらいで使徒が来るんだ……」

 独り言を言いながら色々と考えるが、中々考えは纏まらない。使徒が来るのはいつ? 何時間後? 何分後? どこへ行く? シェルターに入って何とか連絡を取る方法を考えるべきか? しかしシェルターもすぐ近くにある訳ではない。思い切って本部へ行くべきか?。ここは市の中心からはかなり西であり、ジオフロントへのゲートもやや離れている。

「この前の時、使徒が来たのは警報が出てから1時間以上後だった……。どうしよう……。クソっ!! とにかく本部へ行くんだ!! なんとか間に合うだろう!!」

 自分自身にそう言い聞かせるように叫ぶと、シンジは再び駆け出した。

 +  +  +  +  +

 IBO本部中央制御室。

 五大の怒鳴り声が響き渡る。

「エヴァ全機出撃準備を急げ!! 葛城君! パイロットは!!?」

「サード以外は全員こちらに向かっていますっ!!」

と、ミサトも叫んだ直後、日向が、

「服部部員から連絡です! 音声出します!」

『こちら情報部服部! 外国にも使徒が出現しました!!』

 五大は歯噛みし、

「クソっ!! やっぱりか!! 服部! 引き続き情報を集めておけ!」

『了解!!』

「……いよいよ、量産型と使徒との戦い、か……」

と、吐き捨てた五大に、ミサトも無言で頷くだけだった。

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 海外で出現した使徒は、サキエル、シャムシェル、ラミエル、イスラフェル、マトリエル、サハクィエルの6体だった。イロウルとバルディエルは別として、前回ロシアに現れたレリエルは今回は何故か出現していない。

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 IBOアメリカ東支部。中央制御室に支部長の怒鳴り声が響く。

「槍ハ装備シタナ!!?」

「ハイ! 装備完了シテオリマス!!」

 緊張した面持ちの操作員が怒鳴り返す。

「拾参号機、発進セヨ!!」

「発進!!」

 量産型エヴァンゲリオン拾参号機は、「蠢く粘菌状の物体」が待つ射出口に向けて上昇して行った。

 +  +  +  +  +

 それぞれの国の政府からの「依頼と言う名の命令」を受けた世界中のIBO支部では、「ロンギヌスの槍」のコピーを持たせた量産型エヴァを出撃させた。「子供」を乗せて……。

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 ゲンドウ達は、待ち合わせ場所に停めた車の中でリリスを待っている。

 祇園寺が、車の時計を睨みながら、

「……リリスはどうした。遅れよってからに……」

 アダムも、首を傾げ、

「……どうしたんだろうね。途中で分れたんだけど、すぐ来るだろうと思ってたのに……」

 リツコが振り向き、

「テレパシーでわからないの?」

「それが……、リリスのやつ、なぜか今、心を閉ざしているんだよ。何も感じないね……」

 その時、外を見ていた祇園寺が、

「お、リリスだ。やっと戻って来たぞ」

「よかった。ほっとしたよ」

と、言いつつ、アダムはドアを開け、リリスを迎え入れる。

「……おそくなりました。すみません……」

 淡々と言ったリリスに、ゲンドウは眼鏡を光らせ、

「どうして遅れた」

「道に迷いました」

 ゲンドウは一瞬沈黙したが、ややあって、

「……そうか。……では行くぞ。……リツコ君、出せ」

「はい」

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 IBO本部中央制御室。

 マヤが振り返り、

「サード以外のチルドレンは全員集合しました!!」

 イラつく五大が、

「葛城君!! 碇君とはまだ連絡が取れんのか!!」

 ミサトも苦渋の表情で、

「申し訳ありません!! どうしても連絡が取れません!!」

「弐号機は二人いないと動かんのだぞ!!」

「申し訳ありません! 今、加持が各方面に連絡を取って全力で行方を追っています!! どこかのシェルターに避難している可能性もあります!!」

 頭を下げるミサトに、一瞬おいて、五大は、

「……やむを得ん! 弐号機には鈴原君と洞木君を回せ! 惣流君は参号機ケージで搭乗せずに待機だ! 碇君の到着を待て!!」

「了解しましたっ!!」
(シンジ君! こんな時になにやってんのよっ!!)

 ミサトは心の中で吐き捨てた。

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 シンジは一所懸命に駆けていた。確かこの先にはジオフロントに繋がる非常口がある筈だ。

「そうだ! IDカード!」

 シンジは立ち止まってカードを取り出し、手に握り締めると再び走り出した。

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 中央制御室。

 コンソールを操作しながら、青葉が、

「使徒は南東から高速で接近! モニタ可能距離に入りましたっ!! 映像出ますっ!!」

 メインモニタに映し出された映像に、ミサトが叫ぶ。

「ゼルエル!!!」

 五大も、

「またあいつか!!!」

 その時、日向が振り返り、

「スピードは……、時速700キロです!!」

 五大が眼を剥き、

「なんて速さだ!!」

「ゼルエルは間もなく市街地に到着しますっ!!」

と、叫んだ日向に続いて、マヤも、

「参号機以外のエヴァ、全機出撃準備整いました! 燃料電池システム正常! パイロット搭乗して待機中!」

 五大が大声で、

「エヴァ零号機、初号機、弐号機を市南東部に射出!! アンビリカルケーブルは使うな! ロンギヌスの槍は零号機が担当! 参号機はそのまま待機だ!!」

 ミサトが頷き、

「了解!! エヴァ初号機と弐号機は射出!! 零号機は槍を持たせて射出!!」

 マヤも、声を張り上げ、

「エヴァ初号機と弐号機射出しましたっ!! 続いて零号機、槍と共に射出!!」

 +  +  +  +  +

キイイイイイイイインンッッ!!

 市街地を目前にして、ゼルエルは体を葉巻のような形に丸めて急激に速度を上げ、音速を突破した。

 +  +  +  +  +

 日向は思わず、

「あっ! ゼルエルが体を丸めて急加速しましたっ!! 現在の速度は……、マッハ2.5!!!」

 五大は顔色を変え、

「なにっ!!?? いかんっ!! 衝撃波が来るぞっ!!」

 日向は続けて、

「ゼルエルが飛行コースを変更!! 市の東部を横切りますっ!! この角度だと……、衝撃波が市街地中心部まで達しますっ!!」

「!!! シンジ君!!」

 ミサトも叫んでいた。

 +  +  +  +  +

ガコオオオオオンッ!!
ガコオオオオオンッ!!

ガコオオオオオンッ!!

 エヴァ3機が地上に射出されたとほぼ同時に、運悪く衝撃波が直撃した。

キイイイイイイイインンッッ!!

ドオオオオオオンンッッ!!!!!!
ドオオオオオオンンッッ!!!!!!
ドオオオオオオンンッッ!!!!!!

 3機は地面に叩き付けられるように転倒する。

 +  +  +  +  +

 シンジは非常口直前までやって来た。目の前の角を東に曲がって大通りに出ればそこにゲートがある。

「よし! これで行けるぞ! ……えっ!!??」

 角を曲がったシンジは信じられない光景を目にした。道路のずっと向こうの方から、「眼に見えない力の塊」のような物が地上にある物を破壊しながら猛スピードでやって来るではないか。

「!!!!!!!! うわああっ!!」

 シンジは慌てて引き返し、角を曲がって元の道に戻り、地面に伏せる。

ドオオオオオオオンンンッ!!

「わああああああああああっ!!!」

 シンジの後を凄まじい衝撃波の余波が通り抜けた。大通りのビルのガラスが粉々に砕け散って行く。

「……ど、どうなってんだ……」

 恐る恐る顔を上げて後を振り向いた。余波は通過してしまったらしく、何とかゲートまで行けそうだ。

「とにかく行こう。……ああっ!!!! ないっ!! カードがないっ!!」

 慌てて戻った時にカードを落としてしまった。シンジは焦って周囲を見回し、

「くそっ!! こんな時にっ!!」

 +  +  +  +  +

 五大は思わず叫んだ。

「なんて衝撃波だ!! これだけ距離があるのにっ!!」

 ミサトも顔色を変え、

「エヴァの被害状況はっ!?」

 マヤは前を向いたまま、

「確認中! ……全機正常ですっ!! パイロットにも異常なし!」

 青葉が振り返り、

「衝撃波のため、市街地東部の被害は甚大ですっ!!」

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 転倒した3機はヨロヨロと立ち上がった。ゼルエルは再度旋回してこっちに向かって来る。

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 ミサトがインカムに叫ぶ。

「みんな!! 大丈夫!!??」

 すぐさま、トウジとヒカリの声が、

『こちら弐号機鈴原! なんとか行けます!』
『わたしもだいじょうぶですっ!!』

 続いてケンスケとナツミが、

『初号機もだいじょうぶすっ!!』
『こちら八雲! だいじょうぶですっ!!』

 レイとカヲルも、

『零号機も行けます!』
『僕もだいじょうぶです!』

 五大はインカムを掴み直し、

「エヴァ全機、兵装ビルの裏に回れ!! また衝撃波が来るぞっ!!」

 +  +  +  +  +

キイイイイイイイインンッッ!!

ドオオオオオオンンッッ!!!!!!

 ビルの後に潜む3機のエヴァの横を衝撃波が通過した。弐号機の中でトウジが叫ぶ。

「クソっ!! どないせえっちゅうんじゃ!!」

 付近のビルのガラスは悉く粉々になる。

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「とにかくカードだ!! 探すんだ!!」

 大通りに戻ったシンジは真剣に眼を凝らし、周囲を探す。

「なんだ!?」

 異様な気配を感じて東の方を見ると、またもや向こうから「力の塊」がやって来るではないか。

「!!! また来る!!」

 シンジは反射的に振り向いて駆け出した。

  +  +  +  +  +

「なんてヤツだ!! おまけに自分の体を守るため、ちゃんと丸まって飛んでやがる!!」

と、吐き捨てた五大に、青葉が、

「市街地東部の被害は増える一方ですっ!!」

 ミサトが五大の方を向き、

「本部長! このままではだめです!! 何とか音速以下に速度を落とさせないと槍も使えませんっ!!」

 日向も勢い込み、

「しかし、なんでゼルエルはビームを使わないで衝撃波攻撃をっ!?」

 五大は、苦り切った顔で、

「これほど強烈な衝撃波が地上を襲ったら絨毯爆撃と一緒だ!! ピンポイントのビームよりも荒っぽいからだろう!!」

 その時、アスカの声が、

『ミサト!! あたしがいくわ! 参号機はひとりでもうごかせるでしょっ!!』

 ミサトは、インカムを着け直すと、

「アスカ! どうするつもりよ!!」

『できるだけはなれたところにでて、レーザーライフルで長距離攻撃するわ!!』

 それを聞いた五大は、

「あいつにはレーザーは効かんだろう!」

と、言ったが、すぐに気付き、

「そうか!! 牽制か!」

『そうです! レーザーで牽制して一時的に敵の速度を音速以下にさげさせるんです! そのすきに零号機に槍をなげさせたらいいでしょ!』

と、言ったアスカに、五大は、

「しかし、少々離れてもこの衝撃波だぞ! 躱しながらのレーザー攻撃を一人でやるつもりか!?」

『はい!! やってみせます!! やらせてください!!』

 一瞬考えた後、五大は、

「……よし!! いいだろう!! 行きたまえ!!」

『了解!!』

 五大は、ミサトの方を向き、

「葛城君!!」

 ミサトは頷き、

「了解! 参号機射出準備!! アスカは搭乗!! レーザーライフル用意!!」

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 辛くも衝撃波を逃れたシンジだったが、このままでは身動きが付かない。

「クソっ!! どうしたらいいんだ!!」

 その時だった。

「シンジ君!! 大丈夫か!!??」

 その声にシンジが振り向くと、驚いた事に、加持がこちらに駆けて来る。

「加持さん!!?? どうしてここに!!??」

「話は後だ! ここの裏に車がある! 行くぞ!」

「はいっ!!」

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 ミサトが叫ぶ。

「参号機発進!! 射出ポイントは市街地西側の8番!!」

 マヤが呼応する。

「射出します!!」

 アスカの声が響く。

『行きます!!』

 +  +  +  +  +

 衝撃波を躱すルートを慎重に選びながら、真剣な表情で加持が西に向かって車を走らせる。シンジはやや青ざめた顔だ。

「……加持さん、……すみません。……ご迷惑をおかけして……」

「今はそんな話はいい。とにかく早く本部へ行こう。……まあ、衝撃波を躱さにゃならんから、少々遠回りになるがね……」

「でも、どうして僕があそこにいる事がわかったんですか」

「アスカから話を聞いてね。君がみんなと分れた場所からどれぐらいの半径の距離の範囲にいるか考えたのさ。それでな、非常事態宣言が出た場合、君がどこへ向かうか推理したんだ。ま、少々探したがね。運良く何とか君を発見出来た、って訳さ」

「………」

「シンジ君、もう気にするな。『名誉挽回のチャンス』はこれからだよ。……アスカが君を待っているぞ」

「えっ!? じゃ、弐号機は出撃していないんですか?!」

「いや、弐号機は鈴原君と洞木君が乗って出たよ」

「えっ!!?」

 その時、正面の兵装ビルが上昇した。

ガコオオオオオンッ!!

 何と、中から現れたのは参号機ではないか。シンジは思わず、

「参号機!! まさか!!」

「アスカ! 一人で出たのか!?」

 加持も顔色を変えた。

 +  +  +  +  +

 参号機の中でアスカが叫ぶ。

「レーザーライフル構えて!! ええっ!!?」

 突如、ゼルエルがコースを変えてこちらに向かって来た。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)

夏のペンタグラム 第五十二話・寸善尺魔
夏のペンタグラム 第五十四話・絶対絶命
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