第四部・二つの光
「エヴァの世界」の2015年。
10月16日に第3新東京市に襲来した4体の使徒は、エヴァンゲリオン3機の活躍で殲滅され、世界中に出現した無数の小型使徒も、その時同時に消滅し、事件は解決した。
その混乱の中で、ネルフ司令だった碇ゲンドウは殉職した。そして、赤木リツコと冬月コウゾウも隠棲する事となり、事態は一応の収拾を見た筈だった。
しかし、実はゲンドウは死んでいなかったのだ。
ゲンドウは自分のクローンを密かに作っており、それを自分の身代わりとしてまんまと逃亡していたのである。
そして、異次元からやって来た祇園寺羯磨と共に、赤木リツコも引き込み、アダムとリリス、そして使徒を復活させ、「二つの宇宙」の滅亡と再生を目論んだのであった。
+ + + + +
「オクタの世界」の2013年。
2011年に起こった大事件、「カオス・コスモス」からようやく世界が立ち直った中、日本では、「初代ガンダム」をイメージしたようなデザインの、体長25メートルを超える大きさの宇宙開発用ロボット、オクタヘドロンⅡが完成し、5月10日に初の試験飛行を行った。
そして同じ頃、アメリカでは、これまた、「初代エンタープライズ」をイメージしたようなデザインの宇宙戦艦、エンタープライズが、飛行テストを行う直前まで漕ぎ着けていた。
そんな中の5月17日。月の裏側から突如やって来た「使徒・サキエル」が、ハワイを襲った。そして、それを皮切りに、世界中で大型使徒が出現し、猛威を振るう。
驚いた事に、今度の使徒は、「食人鬼」と化し、手当たり次第に人間を食いまくったのである。
世界各国の軍隊はすぐさま使徒に対して反撃を開始する。そして、意外にも、核兵器で使徒を撃退する事に成功。使徒は行方をくらます。
不気味な沈黙が続く中、6月に、8機のオクタヘドロンⅡを搭載し、エンタープライズが月の裏側に調査に向かった。
そして、その調査中、地球に使徒が出現したとの連絡を受け、大急ぎで帰還しようとした時、沢田サトシの乗るオクタヘドロンⅡ・アカシャが行方不明になる。
やむを得ず、形代アキコのアグニと、綾小路ゆかりのヴァルナの2機を見張りに残し、エンタープライズは5機のオクタヘドロンⅡと共に地球に戻った。
戻って来た地球では、世界中の軍隊による、使徒に対する戦略核兵器の直接攻撃が行われたのだが、今回は、使徒は核兵器を跳ね返し、世界中をゆっくりと荒らし回り続ける。
そして、細菌状の使徒、イロウルが通信回線や電力線を冒したため、世界中でパニックが発生し、収拾が付かなくなってしまった。
+ + + + +
序章
+ + + + +
ここは「暗黒の次元」。
レリエルの「ディラックの海」に飲み込まれたエヴァ零号機は、なすすべもなく何もない暗黒の空間を漂っていた。そんな中、カヲルが、
「……綾波さん……」
「はい……」
「どうしたらいいと思う?……」
「……わからないわ……。前にシンちゃんがこの使徒に飲み込まれた時は、初号機は自分で使徒を倒して外に出て来たのよ。……でも、零号機はどうしても動かないし、助けを待つしかないわね……」
「酸素はだいじょうぶかな……」
「燃料電池があるから、生命維持モードにしておけば、何日かは持つらしいわ。それに、水も作れるしね……。食糧は、シートの下に非常用の流動食があるから、何日かは生きられるわ……」
「……あの、……トイレは……」
「前のエヴァの時は、エントリープラグにLCLを入れていたから、それの浄化装置が使えると思うわ。燃料電池から水を出して、プラグの一番底まで降りたら、なんとかなるんじゃないかしら……」
「そうか。……ごめんね。変なこと聞いて……」
「ううん、当然のことよ。……でも、今回は前の時と違うから、助けに来てもらえるかどうかはわからないわ……」
「どう言うこと?」
「シンちゃんが飲み込まれた時は、使徒の『影』とも言うべき『球体』が空に浮んでいてね。初号機はその中にいたのよ。でも、今回は『ディラックの海』だけでしょ。わたしたちがどこにいるのか、本部でもわからないんじゃないかしら……」
「そうか……」
「それにね、わたし、思うんだけど、ここは使徒の中じゃないような気もするのよ……」
「どうしてそう思うの?」
「……わたし、前にも、一度こんな所にいたことがあったの……」
「どう言うこと?」
「……わたしね、一度死んで、生まれ変わったのよ……」
レイの言葉の余りの意外さに、カヲルは仰天した。
「えっ!!?? ……ど、どう言うことなの?……」
「……順番に話すわ……。じつはね……」
レイはカヲルに「かつての出来事」を語った。自分がシンジを助けようとして零号機で自爆した事。「暗黒の次元」に魂を吹き飛ばされた事。そこでのサトシとの出会い。そして、「オクタの世界」に行って「マーラとして現れた使徒」と戦った事……。
「……そんなバカなことが……」
「ほんとよ。……そしてね、その世界にはね、……あなたもいたのよ」
「!!! どう言うことなの!!??」
「それを話すと長くなるわ。話が前後するけど……」
レイは引き続き、彼女が知っている「別の歴史」を語った。そして、「使徒・渚カヲル」の事も……。
「……そんな……。そんな……」
カヲルはそれだけ言うのがやっとだった。
「……でも、こうして聞いたら、今まで疑問だったことで、わかったこともあるでしょ……」
「確かに……。僕が最初に碇君に会った時に感じた親近感も理解できるし、それに、なんだかいつも心にひっかかっていた事も理由がわかったような気がするよ。……でも、でも、………僕は使徒じゃないよ!!」
「それはわかってるわ。わたしだってリリスじゃないんだし、それはあなたもわたしも同じよ。……でも、『前の歴史』、……それがほんとにあったことなのか、それともわたしたちが見ていた悪夢だったのか、わたしにはわからないけど、わたしはこんな体験をしてきたのよ。……その積み重ねの上に、今のわたしがあるのよ……」
「……綾波さん……」
「うん?」
「……僕のこと、きらいじゃないのかい?……」
「そんなことないわ。……わたしも生まれ変わったんだし、あなただって、『使徒・カヲル』じゃない。……わたしは今生きている、人間の女の子の綾波レイよ。そしてあなたは人間の男の子、渚カヲルじゃないの。……シンちゃんも、アスカも、それをわかった上で、わたしやあなたと付き合ってるんじゃない。……わたしだって、そうよ……」
「……そうか、……ありがと……」
「そんな……。気にしないで。……だって、何度も言うけど、今のわたしたちは、前のわたしたちじゃないのよ。……前だったら、わたしはリリスとなるべくして作られたクローンだったのよ。ずっとそう思ってたし、実際にそうだったのよ。でも今はちがう。だれがなんて言っても、わたしは、シンちゃんのいとこで、碇マイの娘、綾波レイなのよ……」
「……そうだね。……うん、わかったよ」
「……でも、これからほんとにどうしましょ。さっきも言ったように、ここはわたしが前に来たところと似てるけど、ちがうような気もするわ。……でも、なんて言うのか、使徒の中じゃないような気がする。……なんか、もっとなつかしいような、安心できるようなところのような気がするの。……だから、その意味でもね、本部がみつけてくれないかも知れない、って思うのよ……」
「……そうか。……でもさ、もしここが使徒の中じゃなくて、もし綾波さんが行ったことのある、『その世界』だったとしたらさ、ここから出られる方法があるんじゃないの? だって、前の時、綾波さんはそこから『向こうの世界』に行くことができたんだろ」
「……うん。その時はそうだったわ。マントラを唱えたら、いろいろなことが起こったのよね。……サトシくんにも心が通じたし……」
「じゃ、そのマントラを唱えてみたら? ここから出られるかも知れないよ」
「……わたしも最初はそう思ったわ。でも、恐くて唱えられなかったのよ……」
「どうして?」
「ここがもし『その世界』じゃなかったとしたら、マントラを唱えたことで、なにが起こるかわからないじゃない。うまく帰れたらいいけど、全くちがう世界に行ってしまうかも知れないし、……それに、最悪の場合、わたしたち、消えてしまうかも知れないじゃない……」
「でもさ、ここで死ぬよりはマシだよ。やってみるべきだよ」
「……でも、わたしはいいけど、……あなたは消えてしまってももいいの?」
「それは仕方ないよ。もしそうなったら、それも運命とあきらめるさ。……このままここでなにもしないで待つよりも、なにかやってみるべきだよ。……もちろん、綾波さんがよかったらの話だけどさ……」
「……わたしはいいわ。……どうせ一度は死んだ体なんだもの。それに、たしかにあなたの言うように、このままここにいても助かると言う保証なんかないしね……」
「じゃ、決まりだ。やってみようよ。どうするの?」
「手を組んで、『オーム・アヴァラハカッ』、って、唱えるの。その後はね、心の眼でマントラのシンボルを見続け、心の耳でマントラを聞き続けるのよ」
「マントラのシンボル?」
「うん、こう言う形と色なんだけどね……」
と、レイはカヲルに、サトシから教わったマントラ瞑想の方法を説明した。
「それだけ?」
「うん、これだけよ。……あ、せっかくだから、脳神経スキャンインタフェースの感度を最大に上げて、エヴァと一緒に唱えましょうよ」
「そうか。エヴァは僕たちと心がつながっているんだったね。……わかった。そうしよう」
「じゃ、手を組んで。……唱えましょ」
「あ、ちょっと待って」
「どうしたの?」
「もしかしたら、僕たち、消えちゃうかも知れないだろ。もしこのままそうなったら、後悔することが一つだけあるんだ。……だから、最後のお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな……」
「どんなこと?」
「……僕、……綾波さんが好きだ」
「!!!! 渚くん……」
「僕さ、前にも言ったように、女の子が苦手だったんだ。……でも、綾波さんや、碇君や、惣流さんのおかげで、女の子とうまく付き合えるようになっただろ。……それでさ、……だんだん綾波さんのことが、好きになって行ったんだ」
「渚くん……、わたし……」
「迷惑だったらごめんね。……でも、一緒に植物園に行っただろ。……あの日のことは忘れないよ。……綾波さんと一緒にいるとね、心が温かくなる、ってことがわかったんだ。……これって、好き、ってことだよね……」
「…………」
「だからさ、そのことだけ、綾波さんにちゃんと言っておきたかったんだ。聞いてくれてありがと。もう思い残すことはないよ。じゃ、唱えようか」
「待って」
「え?」
「……わたしも、……あなたが好きよ」
「!! 綾波さん……」
「……うれしい、……ほんとにありがと……、ぐすっ……。わたしも、あなたが好き。……一緒にいると、心がやすらぐのよ。……これって、……好き、ってことよね。……ぐすっ……」
「……綾波さん……」
「……最後に、レイ、って呼んで……」
「………好きだよ。……レイ……」
「……わたしもよ。……カヲルくん……」
二人はどちらからともなくそっと寄り添った。レイはカヲルの胸に顔をうずめている。暫くの間二人はそうしていたが、やがてカヲルがレイの顔にそっと手をかけた。レイは眼を伏せてカヲルの手の動きに彼女自身を委ねている。その端正な横顔には、一筋の涙がかかっていた。
「…………」
「…………」
カヲルは自分の顔をレイに近付けた。
「…………」
「…………」
まさに瞬きの間だった。まるで小鳥の羽毛が触れ合うかのように、二人の唇はほんの一瞬だけ重なり、そして離れた。
「……さ、唱えようよ……」
「うん。……じゃ、準備はいい?」
「いいよ」
「唱えるわよ」
「うん」
「オーム! アヴァラハカッ!」
「オーム! アヴァラハカッ!」
(
□
○
△
∪
∩
□
○
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∪
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□
○
△
∪
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□
○
△
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………)
(
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○
△
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∩
□
○
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∪
∩
□
○
△
∪
∩
□
○
△
∪
∩
………)
二人が目を閉じて心にマントラのシンボルを浮かべ、それを心の眼で追っていた時、突然エントリープラグがほんの僅かながら振動を始めた。
「えっ?」
「なんだ?」
二人が驚いて目を開いた時、
□
○
△
∪
∩
メインスクリーンにウィンドウが開き、マントラのシンボルが大きく表示されたのである。
「これは! マントラのシンボルなの!?」
レイが驚いて声を上げる。その時突然二人の脳裏に極めて強く青い光が閃き、
「ああっ!!」
「ああっ!!」
二人が思わず声を上げた直後、エヴァ零号機は一瞬強い青い光を放ち、その後、忽然と消え去った。
+ + + + +
ここも「暗黒の次元」。
月面を探索中に突然消息を断ったサトシのアカシャは、何もない真っ暗な空間を漂っていた。
「……だめだ。……何をやっても連絡が取れない。……でも、ここはどこなんだ。前にレイと会った『あの場所』とも違うみたいだし……」
目の前のスクリーンには相変わらずウィンドウが一つ開いてマントラのシンボルが映っている。
□
○
△
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∩
「一体どうなってるんだろうなあ。……どうもわからないなあ……。もう3時間かあ……」
コックピットの時計では自分がここに来てから3時間しか経っていない。しかし、このような状況での3時間と言うのは酷だった。
「どうやって通信するかなあ。……やっぱりテレパシー通信しかないのかなあ。……もう一度マントラ瞑想でもやってみるか……」
実はここに来た直後、暫くの間マントラ瞑想をやっていたのであるが、その時は何も起きなかった。尤も、心理的にも混乱していた状態で焦ってマントラを唱えた上に、マントラの波動をまともに意識出来なかった事も事実ではあったのだが。
「やっぱりマントラだな。……よし」
サトシはコックピットで背筋を伸ばし、姿勢を正すと手を法界定印に組み、眼を半眼にしてマントラを唱えた。
「オーム! アヴァラハカッ!」
引き続き心でマントラのシンボルと波動を追う。
(
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○
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∪
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□
○
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∪
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□
○
△
∪
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□
○
△
∪
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………)
「だめだ。やっぱり何も起こらない……」
サトシは改めてウィンドウを見た。
「これって、『ア・ヴァ・ラ・ハ・カッ』、だったな。それぞれ『地・水・火・風・空』を表している、と……」
ジェネシス時代の岩城の講義を思い出しながら、改めて記憶を辿る。
「あ、そう言や、『オーム』を付けるとか付けないとか、そんな話もあったな。確か、『オーム』を付けたら能動的で、付けなかったら受動的、だったような……。あっ! そうだ! 思い出した!」
加山龍海と言う真言宗の僧侶に教えてもらった話を思い出した。それについての記憶を改めて確認してみると、
「確か、『オーム』は『帰命』だから働きかけ、その後の『アヴァラハカッ』は大日如来そのもので、自分と大日如来が一体となる意味。と、言う事は、最初に『オーム・アヴァラハカッ』と唱える事が働きかけで、その後シンボルを心で見て聞く事が大日如来との一体化、になる訳だよな……、あ! そう言や、『開放系の神様』も、同じような事言ってたな! 何もない状態でいきなりマントラを意識したら、それは神の啓示だと素直に受け取れ、って……、だとすると、今回は、いきなり『アヴァラハカッ』だけが現れた訳だから……、ああっ!! そうか!! 今の場合は『オーム』を付ける必要がないと言うか、むしろ、付けたらダメなんじゃないのか?!」
こじつけかも知れないが、この考えは論理的には筋が通っている筈だ。そう考えたサトシは、
「よしっ! 『オーム』なしでやってみよう!」
改めて姿勢を正し、法界定印に手を組む。
「アヴァラハカッ!」
(
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○
△
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△
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△
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………)
心の眼と耳でマントラを追ったその時、
「ああっ!!!」
突如脳裏に青い光が閃き、サトシは驚いて眼を開けた。
「ウィンドウが二つ!! ああっ!!! これはっ!!!」
まさに「晴天の霹靂」だった。二つのウィンドウにそれぞれ1機のオクタヘドロンⅡが映っているではないか。
「アグニとヴァルナだ!! 形代!! 綾小路さん!! そうだ!! 通信回線開け!! 出力を最高にしろ!! 形代! 綾小路さん! 聞こえるか!! 応答しろ!!」
+ + + + +
こちらはアグニのコックピット。
『形代!! 綾小路さん!! 聞こえるか!! 応答しろ!! 応答しろ!!』
「……う、うーん……。えっ!! 沢田くんっ!!!」
サトシの声に、気を失っていたアキコは飛び起きた。
+ + + + +
ヴァルナのコックピットでも、サトシの呼びかけで眼を覚ましたゆかりが飛び起きていた。
「聞こえますわっ!! 沢田さん!! 応答願いますっ!!」
+ + + + +
サトシは大声で、
「通じた!! よかった!! 二人とも無事かっ!!」
すぐさまゆかりの声が、
『私は大丈夫ですわっ!! 形代さんっ!!』
続いてアキコの声も、
『わたしもだいじょうぶじゃけん!! 沢田くん!! よかった!! 生きとったんねっ!! よかった!! ほんとによかった!! う、うあ、うあああああっ!!』
「形代!! こっちは大丈夫だよっ!! こ、こんな時に、うっ、な、泣くなって、……ぐすっ……」
『なに言うとるんよ!! ううっ! 沢田くんも、ぐすっ、泣いとるじゃないのっ! ぐすっ……』
『まあまあ、お二人とも、泣くのは、あ、後にしましょう! ぐ、ぐすっ……』
「あ、綾小路さんも泣いてるじゃないですかっ! ぐすっ……」
と、サトシが言った事もあって、ゆかりは何とか泣き止み、
『とにかく一つの所に集合しましょう!』
「そうですね! でも、どうしたら……」
『オモイカネⅡのオートパイロットを動作させて、通信波に向かって進めばいいでしょう! 通信回線はずっと繋ぎっぱなしにしておくのですよ!! わかりましたね!!』
「了解!!」
『了解!!』
+ + + + +
オモイカネⅡの誘導で、程無くして3機は集合する事が出来た。
まず、ゆかりが、
『でも、ここはどこなんでしょう? どうやって帰ったらいいんでしょう……』
アキコも、
『沢田くん、ここ、前にわたしらが来たことある「異次元世界」とはちょっとちがうみたいじゃね』
「うん、あそことは何かちょっと違うみたいだ。……でも、何て言うか、ここ、恐怖感をあんまり感じないんだ」
と、言ったサトシに、ゆかりが、
『それはそうですわね。私も何故だかそれほど恐さを感じませんわ』
アキコも同意し、
『たしかにそうじゃね。なんて言うか、変に安心できるような感じさえしよるよ』
「でも、どっちにしても、僕ら、オモイカネⅡの導きでここに来たんじゃないのかな。だとしたら、きっとここに何かがあると思うんだけど」
と、サトシが言ったのへ、ゆかりは、
『そうですわね。特に、中之島博士が仰っておられた、「超越意識」に該当する「5番目のCPU」が動作したのですから、そこに何か意味があると思いますわ』
「えっ?『5番目のCPU』が動作していたんですか?」
『そうですわよ。インジケータをご覧なさいな』
「あ、本当だ。今まで全然気が付かなかった……;」
ここでアキコが、
『どっちにしても、こうなった以上、またオモイカネⅡに判断させるしかないんじゃなかろか』
「そうだね。つまり、……えっ!!?」
『どうしたん!?』
「いやその、何と言うか、胸騒ぎが……」
(この感じ、「あの時」の胸騒ぎと同じだ!!……)
『胸騒ぎ?』
「うん、月でこんな胸騒ぎを感じて、それであの場所に降りたんだよ。その後、突然ウィンドウが開いて、マントラのシンボルが映って、マントラが心に聞こえて、青い光が見えて、それからここに来たんだ」
サトシの言葉に、アキコとゆかりは、
『えっ? ……ええっ!!』
『!!! ちょっと待って下さい!! だとすると、もしかしたら、私と形代さんがここに来たのもマントラが原因では!? 私達もマントラを唱えた時にここに飛ばされたんですのよ! 沢田さん! それでその後はどうなさっておられたのですか?』
「ここに来てしばらくはマントラ瞑想をやっていたんです。でも何も起きなかったんですよ。ところが、ついさっきまたマントラ瞑想をやったら、何故かお二人に巡り合った、と言う事なんです」
『沢田さん! あなたが2回目のマントラを唱えたタイミングは、ここへ来てからどれぐらいの時間が経った時ですか!?』
「大体3時間ぐらいです!!」
アキコも驚いて、
『!!! 一致しとるよ!! 綾小路さん!!』
『私達がマントラを唱えた時と時間的には符合していますわ!! 沢田さん!! マントラが原因と言う事は充分考えられますわよ!!』
「あ、それで、なんですが、さっき僕が唱えたマントラは、『オーム・アヴァラハカッ』じゃなくて、『アヴァラハカッ』だけだったんです。そしたらウィンドウが開いて、そちらの2機が映ったんですよ!」
『えっ!? 私達は「オーム」を付けましたわよ!』
「えっ!? そうだったんですか?! ちょっと待って下さい!。さっきは僕は『オーム』を付けなかったんですが、ここへ来てすぐにマントラ瞑想をやった時は付けてました! で、その時は何も起きなかった、と……。綾小路さんと形代は『オーム』を付けた訳ですね!」
『その通りですわ! と、言う事は、私達は「オーム」を付けたマントラを唱えたからここに来たと言うよりも、沢田さんの「オーム」なしのマントラに引き寄せられた、と言う可能性も……。沢田さん! あなたがここに来た時は、ウィンドウのシンボルは見てマントラの波動は感じたが、ご自身でマントラを唱えたわけではなかったんですよね!?』
「その通りです! 強いて言えば、『オーム』のないマントラを体感しただけだから、結果として受動的だった、とも言えると思います!」
『だとしますと、「オーム」を付けずに「受動的にマントラの波動を体感する」ことがポイントになっている、と言っても過言ではありませんわね!』
「そう考えられます! もう一度『オーム』を付けずにマントラを唱えたら帰る事ができるかも知れませんね!!」
『そうですわ!! 「オームなしのマントラ」が「次元のドアを開く鍵」である可能性は充分ありますわよ!! 今回は「オーム」を付けずに「アヴァラハカッ」とだけ唱えましょう!』
ゆかりの言を受け、アキコがすぐさま、
『わかりました!』
ここでサトシが、
「あ、すみません! 念のための確認です。手の組み方はどうしますか?」
と、言うのへ、アキコが、
『あ、改めて言われると、それは全く意識しとらんかったよ! さっきは思わず普通に手を組んで祈っとった!』
ゆかりも、
『私もですわ! 法界定印ではなく、普通に手を組みました。いわゆる外縛印と言う組み方ですわ!』
「そうでしたか! 僕がさっきマントラを唱えた時は法界定印でした!」
『えっ!? そうでしたか! 分かりました! 沢田さんが法界定印と『オーム』なしのマントラを唱えた事でに今の状態になった可能性もあります! 今回は思い切って法界定印でやってみましょう!』
ゆかりも興奮を隠せない。アキコも、
『わかりました!』
『では、今回法界定印で、「アヴァラハカッ」と唱えて祈りましょう!』
「了解です!」
『了解です!』
『では私が号令をかけさせて戴きます。私が、はい、と言ったら、一緒に唱えてくださいね!』
「了解です!」
『了解です!』
『では、準備して下さい! ……行きますわよ。……はい!!』
「アヴァラハカッ!!」
『アヴァラハカッ!!』
『アヴァラハカッ!!』
+ + + + +
「……う、……うーん、……どうなったの……」
一瞬気が遠くなった後、レイは我に返った。自分のすぐ側ではカヲルが気を失ってシートにもたれかかっている。
「……カヲルくん、あ、……渚くん、起きて」
レイはカヲルを揺り動かした。
「……う、……あ、どうなったの!?」
「わからないわ。……どうなったのかしら、一瞬頭の中が光って気が遠くなったのよ」
「僕もそうだよ。……ここはどこかな。……さっきの場所だろうか……」
「わからないわ。……計器にはなにも……、えっ!?」
レイは驚いた。スクリーンの片隅にウィンドウが一つ開いており、その中に、さっきと同じマントラのシンボルが映っているではないか。しかもそのシンボルは単に一列に並んでいるだけではなく、十字になったり星型になったり円になったりと、まるでスクリーンセーバーのような規則的な動きを見せている。
「これは、どう言うことかしら?……」
「なんだろう……。あれっ? スクリーンの下の方、なんか明るくない?」
「えっ!? たしかにそうよ! 下の方に明かりがあるのかしら。……カメラの角度を変えられるかな……」
レイはそう言うとコンソールに手を伸ばした。
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サトシとアキコとゆかりはひたすら心の眼と耳でマントラの波動を追っていた。その時、
「ああっ!!」
『ああっ!!』
『ああっ!!』
突然サトシの脳裏にまたもや青い光が閃き、スクリーンにウィンドウが開いた。急いでそれを覗き込んだサトシは、そこに映った映像の余りの意外さに驚愕し、思わず大声で、
「これはっ!!! エヴァンゲリオン零号機!!!」
『こっちも映っとるよ!!』
『こっちもですわ!!』
信じ難い事に、そこに映っていたのは「暗黒の次元を漂うエヴァンゲリオン零号機」の姿だったのだ。サトシが慌ててカメラの角度を変えると、
「ああああっ!!!」
『ああああっ!!!』
『ああああっ!!!』
ほぼ同時に三人は叫んでいた。エヴァンゲリオン零号機がぼおっとした白い光を発しながらスクリーンの横方向から姿を表したのだ。その時、自分の心の中に浮んだ映像に向かって、サトシはまたもや叫んだ。
「レイ!!!!!」
+ + + + +
その時だった。突如レイの耳に、
(「レイ!!!!!」)
「サトシくん!!!!!!」
余りの驚きにレイは思わず叫んだ。それは紛れもなくサトシの声だ。カヲルは絶句したまま眼を白黒させている。
「サトシくん!! どこにいるの!!?」
その時だった。零号機のメインスクリーンの端から、3体の巨大な人型の物体が姿を現した。
「これは!!!??」
「!!!!!???」
レイは思わず叫んだが、カヲルは絶句したままである。そしてその直後、再びレイは叫んでいた。
「オクタヘドロン!!!!!!!」
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'祈り(Ver.4b) ' composed by VIA MEDIA
二つの光 第一話・再会
目次
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